婚活のお世話までしている父。
でんきやの枠にはまらないでんきやです。

僕はでんきやになって12～3年。父が創業した店の店長をやっています。父は子どもの頃、自宅を訪れるでんきやさんを見て、自分もこういう仕事がしたいと憧れたそうですが、確かに父にとって“街のでんきや”という仕事は天職かも。本人は「自分が楽しいからやっているだけ」と言うんですが、とにかく人が好きというか、面倒見がいいというか…。転勤で横浜に引っ越しされたお客さまがいらっしゃるんですが、よほど父のことを気に入ってくださったのか、その方に頼まれて、わざわざ横浜までエアコンを取り付けに行ったことも。そのときは、8万のエアコンをつけるために4～5万使ったと言って笑っていました。お客さまのご子息が茨城の大学に入学されたときは、引っ越しの荷物を運んでさしあげたことも。それどころか「誰かいい人いないかしら？」と父に婚活の相談をする若い人も結構いて、これまで4組か5組のカップルが成立。
縁結びまでしているんです。そんな父の姿を見ながら、僕もいつのまにか、街のでんきや継ぐ道を選んでいました。

お客さまのお困りごとには、
24時間365日対応。
エピソードには事欠きません。

父は日頃からお客さまに「私は晩酌はしないし、何かあったら、夜でも正月でもいつでも行くよ」と言っているんですが、なかには本当に「え？！」というようなお電話もあります。
ある夏の日、朝5時に電話で起こされたことがあります。そのお宅のおばあちゃんが亡くなり、朝8時からご自宅で葬儀をすることになった。ところが葬儀を営む部屋には、夏だというのにエアコンがない。葬儀に間に合うよう、いますぐエアコンをつけに来てほしい、とのご依頼でした。幸い、倉庫には仕入れていたエアコンがありましたので、大急ぎで父と飛んで行き、亡くなったおばあちゃんが一人横たわっている部屋で、黙々と取り付けました。
またあるときは、夜中の2時に、エアコンが冷えないとのSOS。駆けつけてみると、何のことはない、一杯飲んでいい気持ちになったご主人が、冷房ではなく、間違って暖房の設定にしているだけだったことも。また、お正月の準備に大わらわの師走、あるお客さまから、餅つき機で餅をつこうとしても一向に餅が出来上がらないというお電話。修理に伺うと、つこうとしているのは、もち米ではなく白米だったという笑い話も。ほかにも、立派なお屋敷の蔵に連れていかれ、たいそう値打ちのありそうな骨董品の処分をまかされたこともあります。

父を見習いながら、
僕は僕の強みを発揮していきたい。
来たる25周年に向け、
ショールームタイプの新店舗を計画しています。

社長である父から学んだのは、人のご縁を大切にするという姿勢。そこは今後もずっと変えてはいけない、うちの店の根幹だと思っています。一方で、家電の世界も、太陽光発電が普及したり、ネットワークで機器が繋がったり、どんどん進化している。ITの活用で急速に進む新しい流れへの対応を、自分の得意分野として精進していきたい。またこれからは、価格勝負のネット通販などもますます拡がっていくと思いますが、「うちの店は親切だから、ちょっとくらい高いのは当たり前」なんて甘んじていてはいけないと思う。お客さまが欲しいときに、欲しい商品を、できるだけお安く提供できるよう、努力していきたいと思っています。うちの店は来年25周年を迎えるのですが、いま新店舗の計画が進行中。まるで一軒の家のような、店なのに靴を脱いで上がり、新しい暮らしを体験できるショールームのような店舗を新築しています。ご縁で結ばれたお客さま、その夢をかなえていくことが、僕らの夢でもあるんです。

ピアレキタガワさんとは、昔っからの長い付き合いです。今日はエアコンを取り替えてもらったんですが、うちの家のことはわかっているし、まかせておけば安心。社長は「僕、酒飲まんから、いつ電話してきてもいいよ」と言ってくれ、心強いんですわ。正月に大勢が集まったとき、いつもは使わないファンヒーターを入れたら、ブレーカーが落ちてしまって復旧できない。正月早々わるいなぁと恐縮しつつ、社長のとこに電話したら、「話聞くより、行った方が早いわ」とすぐ駆けつけてくれました。私らみたいな高齢者は、気楽に頼めるとこがないとダメ。息子さんが後を継いでくれてよかったですわ。