東日本大震災で店舗も自宅も失った、岩手県下閉伊郡山田町の「川村電気商会」。震災から8年半という年月を経て、ついに念願の新店舗をオープンしました。
「店を失くしても、でんきやを辞めようとは思わなかった」
と語る、川村重孝社長。仮設店舗を転々と移り変わりながら、
お祖父さんの代から続く街のでんきやを続けてきました。
震災により何もかも失い、着るものさえなかった川村さん。唯一残ったのは、軽トラック2台だけ。避難生活をする川村さんのもとに、震災3日後には、全国のでんきやさん仲間が、食糧や飲料水、着るもの、そして仕事に必要な工具を届けてくれたといいます。
かろうじて家が残ったお客さまからは、「漏電していないか見てほしい」「アンテナの修理をしてほしい」などと、声をかけられます。
「町の人々の困難を放っておくことはできない」と、街のでんきやとしての使命感に突き動かされた川村さん。軽トラックを走らせ、家の復旧をお手伝いしたり、仮設住宅の暖房器具などをお届けする日々でした。
そして震災から1年4ヵ月後には、プレハブの仮設店舗を再開。その後も、3回ほど仮設店舗を移転。従業員の佐藤澤さんや妹の和子さんと一緒に、お祖父さんが創業したでんきやを続けてきました。
「いつかまた店ができたら、アンタんとこで買うからね」。涙を浮かべながら声をかけてくださったお客さまの言葉が、いつも心の支えだったといいます。
2019年10月19日、念願の本店舗がオープン。
大勢のお客さまがお祝いに駆けつけ、
お店は明るい笑顔にあふれていました。
震災から8年半。以前の姿は戻らないものの、住宅の再建や災害公営住宅への入居も進み、落ち着きを取り戻してきた町の人びと。川村電気商会は、三陸鉄道が走る陸中山田駅のほど近く、道路に面して再建されました。
「お客さまに励まされ、何とか新しい店を持つことができました」と、感無量の面持ちでオープンの挨拶をする川村社長。
当日は大雨だったにもかかわらず、大勢のお客さまが次つぎと駆けつけてくださいました。
「みんな、この日を待ち望んでいたからね」。
どのお客さまの顔もうれしそう。震災前よりお客さまの数は4割ほど少なくなったといいますが、同じ境遇を支え合って乗り越えてきただけに、固い絆で結ばれているようです。
町の人びとのなごみと安心の拠り所である、川村電気商会の再出発。川村社長、和子さん、佐藤澤さん、そしてお客さまの明るく弾む笑い声が、お店の外まで聞こえてきました。